平成17年9月議会
個人情報の保護と有益情報の提供という、両者の兼ね合いの問題についてです。
一つの事例を挙げます。去る9月4日、東京地方で集中豪雨がございました。この際に東京都区部で床上浸水の被害も発生いたしました。
集中豪雨 有益情報の提供、東京都の2区役所で対照的な対応
問題はこの数日後、NHKから、9月4日の大雨で床上浸水の被害に遭った世帯に受信料免除の通知を送りたいので、被災者名簿を出してほしいとの要請が、被災住民を抱える当該区役所に対してあったわけです。
要請を受けた区のうち、中野区役所はNHKに個人情報を提供したのに対し、杉並区役所は、この場合の個人情報の外部への提供は不適切との判断から、名簿の提供はせず、区がかわって受信料免除の申請書を送付したとのことであります。
後日、中野区は名簿の提供は不適切であったと判断し、提供した名簿も回収したとのことでありますが、当初提供してもよいと判断した根拠となる条例は、中野区によれば、区の個人情報保護条例17条における、いわゆる危険回避緊急条項だそうであります。条文を読む限り、最大限の拡大解釈をしたということはわかるわけですが、同様の条例はもちろん杉並区にも存在いたします。
その場での判断よりも、ふだんから判断基準を持つことが肝要
同様の条例を持つ自治体が異なる判断をするということは起こり得ることとはいえ、今回のような事例は、個人情報にかかわることでもあり、住民にとっては極めて不可解な出来事と言わざるを得ないと思います。
私は、こうしたことはその場になって判断するというよりも、ふだんから何らかの判断基準を持つことが肝要ではないかと思うわけです。
さらに言えば、法施行後、まだまだその趣旨の浸透が浅いと言わざるを得ない状況にあって、市が個人情報の提供をすべきか否か、難しい判断をしなければならない場面に直面したとき、仮に条例に合致する蓋然性が高い場合でも、その後の指摘や批判を恐れ、できないのではなくて何もしない、提供は一切しないというように不作為を決め込んでしまう姿勢を、こうした事例が助長することになりはしないかということを強く懸念、危惧するものです。
そこでお伺いをいたしますが、本市の条例にも、第11条5号に「個人の生命、身体、健康、生活又は財産を保護するため、緊急かつやむを得ないと認められるとき」、目的外使用ができると定めておりますが、具体的にどのような場合を想定しているのか、さらには、その判断をだれがどのように下すのか、今回の事例も踏まえて、今後の対応について市民経済局長のお考えをお聞かせいただきたい。
情報提供は関係部局が判断、今後は他都市の情報収集に努める
【市の答弁】
個人情報の保護と有益情報の提供につきましてお尋ねをいただきました。
御指摘のありましたように、中野区や杉並区と同様に、本市の条例におきましても、個人の生命等を保護するため、緊急かつやむを得ないと認められるときには、本人の同意なく個人情報を目的外で提供できることとなっております。
具体的な事例といたしましては、本市に対して医療機関から急病人の緊急連絡先に関して照会があったときなどに、必要な情報を提供することなどが考えられます。また、こうした場合の対応につきましては、関係部局が判断することになりますので、市民経済局といたしましては、日ごろから条例の解釈や相談事例などについて周知を図っているところでございます。今後も具体的にどのような場合が想定されるのか、他都市の事例の収集、意見交換などを行いまして、情報収集に努めてまいりたいと考えております。
庁舎全体が個人情報の保護に過敏になり過ぎている
個人情報の保護について、庁内全体が余りに法に過敏になり過ぎているのではないかという懸念を持っております。
庁内全体が個人情報に関しては、概念法学的な雰囲気といいますか、実践的な判断を避けるといった状況に陥ってしまいますと、これは市民の方々にとってははかり知れない不利益になるわけでございまして、今後ぜひ先ほどの答弁にございましたように、事例の集積等も努めていただいて、お取り組みをいただきますようにお願いをしておきます。